2011年11月5日土曜日

【エーゲ旅行記】さよならアブダビ

2011年10月7日

こんなにも熟睡出来た夜は、この旅で初めての事だった。

ところで今日はアブダビ最後の日。
代理店に何とか頼み込んで出発日を一日遅らせることが出来た。
朝早く起きいろんな後片づけで忙殺されていたら、
「ケニーさんのアブダビ最終日だから、是非会いましょうよ!」とS君とYちゃんからそれぞれe-mailが入っていた。
ホント嬉しいなぁ・・・・ホロリ
でも、もちろん行きます!と即答出来ない事情があった。
遊びたいけど遊べない・・・


旅程の修正は面倒極まりなく、既にbookingしている先方に変更連絡をしないといけない、
返金可能か違約金が発生するか確認してからじゃないと判断が出来ない。
パルテノン神殿が暴動のせいで閉鎖されているとのことで、アテネ情報もチェックしておかないとならない。
お金の振り分けや隠し場所を考えないといけない。
カメラのSDカードのバックアップやブログ草稿を書いたり、ポストカードは現地から投函するものだから今書かないといけない。
お風呂だって入りたいし洗濯もしないと。第一、飯も食ってないではないか。・・・・ぐへ・・
文字通り飲まず食わずで何やってんだろ。


でも明日はWiFiの通じる場所とは限らない、今やって置かないと。
昨日S君の貸してくれたiPhoneは本当に助かった。
彼のiPhoneがWiFiの中継アンテナの代わりになってくれ、自分の部屋からメールチェックや調べ事が出来ている。



ついでに気兼ねなく国際電話に使っていいよって。彼は聖人なのだろうか。。
入金は既に済んでいたが昨日までお金に困っていた俺に、クレジットカードまで貸してあげようか?と。
さすがにそれは丁重にお断りした。どんだけ・・・・優しいのだ。


無我夢中で時計とにらめっこで雑事を一つ一つ片づけていると
彼らからホテルの電話に電話がかかる。
「9時ぐらいに着きます~」
何回も「まだ終わらないんです、もう少し待って!!」と言い続けたこの日の午後だったから
なんぼ何でももう断れない、戻ってから徹夜でやればいいかと、待ち合わせ時間を9時ぐらいにしていた。
ロビーで待っているとYちゃんがやって来た。


「こんばんは~^^」
ん、何やら様子が変だぞ、Yちゃんの表情がこわばってる。
実は、、彼女の口からびっくりな話が飛び出した。
「たった今、S君が交通事故を起こしてしまって。。」 えー????
現場に行ってみるとS君が事故の相手と話を終えたところらしく、2台の車が融合したような配置で停車していた。
これから間もなくで警官の現場検証が始まるという。
彼の車は少しだけ凹んでるくらいだったが、相手の車は前方大破していた。位置的に相手が9割過失がありそうだ。
「S君大丈夫か???」と声をかけたら「俺のことはどうでもいいんだ、ケニー、本当に申し訳ない。最後の夜だと言うのに」と何度も謝ってくれている。
にこやかな表情で「ケニー、今日は忙しいのに来てくれて本当に嬉しいよ」とも。目の前には自分の車が事故って停車しているというのに。
こんないいヤツでしかも超イケメン。この世にはすごい人がいるもんだ。これほどの人格者を見たことがない。


この後S君は警察署へ向かい、Yちゃんと俺と二人で夜のアブダビの街をぶらぶら散策することになった。
何事もなければ美女と夜中の散策するとは思いがけない幸運だが、今日はそんな事情じゃなかった。
カフェで彼の連絡を待つより、少し街中を見てみたい、お散歩しませんか?と提案。
アブダビの街はなんと夜中に独りで歩いても安全。これ以上ないくらい平和。そしてオイルマネーで華美な建物がずらーと並ぶ。
街には人が溢れそれぞれの飲食店は賑やかな様子だ。禁酒の国にはバーがない。酔っぱらいが一人として見受けられなかった。
その代わり可愛らしいポップなデザインのアイスクリーム屋さんの多い事、多いこと。そしてこれが異常にうまい。


一瞬コワモテに見えるアラブ人たち。ほとんどが外国人労働者なのだろう。
怖そうに見えるのは100%偏見であるとこの地に訪れると誰もが知ることになろう。
すれ違う人たちはそれぞれアブダビの夜を楽しんで過ごしているように見えた。
そうこうしながら10分ほど歩くと大都会の真ん中に大きな公園を見つけた。
そこで、驚くべきカルチャーギャップな出来事に遭遇する。

何と、夜も深い10時過ぎに家族連れの市民がいーぱい集ってピクニックをしている。
よく見るとイスや食べ物、水筒など持参しちびっこたちはキャーキャー騒ぎながら楽しんでいた。
これは一体・・・






聞けば、かの地は日中の強い日差しで外出が出来ない。
だから真っ暗になった深夜に家族ずれのピクニックが街の大きな市民公園で行われるそうだ。

それにしてもニッポン人である俺には目を疑う光景であった。
ある家族連れがバドミントンをやっていた。そこで声をかけられ俺たちも参加することに!



ラケットを持ってラリーが始まる。3分もしないうちに真夜中だというのに猛烈な汗が噴き出した。
しかしこれが本当楽しい。身も心も爽快なのだ。
とにかく不思議な感覚だったが20分ほど小学校教諭という年は同じくらいの男性とワイワイ楽しんだ。
日々の体力不足を実感した・・・。俺は汗だくなのに相手は涼しい顔をしているじゃないか。彼ら、汗ひとつかいてない。
これでも20代は仕事明けに毎日バドミントンやってたというのに!
調子に乗ってスマッシュを打とうとするが当たらない。昔から調子コクと失敗するのが俺の特徴。
少し休憩を取ろうと提案。いわば負けを宣言したようなもの。サムライもどきは、かの地で果てた。

それからもう一人の連れの男性から、アラビアコーヒーをご馳走になる。
おらおら飲め飲めー(こんなニュアンス)と勧められるこのコーヒーはさっぱりしてすごく飲みやすかった。
びっくりするほど陽気すぎるアラブのおじさん達。
このコーヒーはすごく小さなカップで飲むのが流儀のようで、ついさっきまで汗だくで水分に飢えてた俺は立て続けに5杯おかわり。

「どこから来たのか?」
「仕事は何をしている?」
とおなじみの質問から、いろんな楽しい話題をすることが出来た。
日本製品がいかにアブダビで好かれているか説明してくれ、なんだか嬉しい気持ちになる。
白い民族衣装を身にまとっているから現地で特権階級クラスなのだろう。話してて優雅な人たちであった。


思いがけぬ交流に心から有り難く思い、また会おう!この公園で!とその場を後にした。
街に戻る道中、こうした偶然の出来事を感謝しながらストライキは必然だったに違いないと思えた。
本当に心からそう思った。二人の親友との出会い、モスクでのお祈り参加、ドバイ体験、現地の人たちとの交流。
大使館の人たちとの接点もそうだ。日常では決して味わえない奇跡の連続だったと思った。
ありがとう・・・・


てくてくホテルまで二人で歩き、Yちゃんをタクシー乗り場まで見送り自室に戻った。期待していたS君からの電話は結局来なかった。
「そうか。。。このままS君とはお別れになってしまったんだな」
後ろ髪引かれる思いで荷物を整理していたら部屋の電話が鳴った。S君からだった。
彼はあの後4時間くらい事故処理のために警察署におり、ようやく済んだとのこと。
また何度も何度も謝られる。「ケニー、こんな日に本当済まなかった・・・」
「でも安心してくれ、明日の朝、俺が飛行場まで車で送ってやるから。寝坊してもいいようにそちらの部屋まで起こしに行くから爆睡してくれ 笑」と。
あまりに嬉しいと感謝の言葉が中々出てこないんです。一体何度thank youを言ったことだろう。
彼は俺のハプニング入国によりこの数日ちっとも寝ていないはずだ。
結局嬉しさとアブダビを離れる寂しさで、この夜は一睡もしなかった。気が高ぶってしまって寝付けもしなかった。
お陰で溜まった写真整理とアップロード、ブログ草稿などを、近くで買ったステーキバーガーを頬張りながら書き終えて気がつけばチェックアウト時間の30分前になっていた。







そうしてたらフロントから電話がある。S君がロビーに着いたからだ。
いよいよか。この旅はじめてのチェックアウトを済ます。
彼との再会を喜び、夕べの状況を尋ねた。
彼は本当にやり手だ。相手が10割過失があると警察に認めさせ、ついでに関係のない箇所まで相手の保険で修理させる交渉をまとめちゃったそうな。
敵にはしたくない男だよ、、とつくづく思った。
目の前のニコニコ男は味方だからこんなに安心出来るのだ。


アブダビ航空への30分。車内では熱い熱い語り合いをした。
彼はシリア人。中東問題や宗教の話、アブダビの経済や中東革命の話。
現地の人から貴重な真実のお話を聞いた。世界のニュース問題が今この瞬間に現地インタビューをしているかのように俺は一つ一つ尋ねた。


先日惜しまれて亡くなったスティーブジョブス。彼の実の父親はシリア出身。
その事を話したら彼はスティーブがあまり好きではない、とジョークで話を誤魔化した。
つまるところ、Apple製品は好きだがスティーブは大嫌いという結論。
シリアの血はきっとIQが高いに違いないと思う。彼もそうだし早口で論理展開が恐ろしく速い。
日本でこれほどのキレ具合を持っている人に会ったことがない。


空港に着いた時、心から寂しく思った。ここでS君とお別れ。
Yちゃんはこの日成田へのフライト。ついさっきまで仲良く遊んでた3人はそれぞれ別々に。



人生でこれほど熱い握手はあっただろうか。一生の思い出に残る別れのシーンであった。
異国の地で、ほんまもんの漢に出会えた。


この1時間後、俺はアブダビ発アテネ行きの飛行機に乗ることになる。
高揚する期待感と別れの喪失感が入り交じる複雑な心境で。






つづく